法人カードで貯まったポイントやマイルを、社長が個人的に使っている。家族旅行の航空券に充てた。Amazonで私物を購入した。
中小企業の経営者であれば、心当たりがある方は少なくないはずです。当メディアが中小企業経営者200名を対象に実施した独自調査では、法人カードのポイントを個人利用したことがある経営者は51%にのぼりました。つまり、法人カード保有者の2人に1人が、ポイントを個人的に使った経験があるということです。
しかし、この行為には税務上のリスクがあります。結論から言えば、法人カードのポイントを社長が個人利用すること自体は「違法」ではありません。ただし、税務処理を正しく行わなければ、税務調査で指摘され、追徴課税を受ける可能性があります。
この記事では、法人カードのポイント・マイルの税務上の取り扱い、税務調査で指摘されるケース、そして指摘されないための正しい運用方法を解説します。
法人カードのポイントは誰のものか
法人カードの利用で貯まるポイントやマイルは、法律上の所有権が明確に定められていません。カード会社の規約上は「会員に付与される特典」ですが、カードの名義は法人ではなく代表者個人であるケースが多く、ポイントの帰属先が曖昧なグレーゾーンになっています。
ここで重要なのは、「ポイントの原資は法人の経費である」という事実です。法人カードで支払われた経費(仕入れ、通信費、広告費、交通費等)は法人の損金として計上されています。その経費の支払いに伴って発生したポイントは、経済的には「法人に帰属する資産」と見なすのが税務上の原則です。
つまり、法人の経費から生まれたポイントを代表者個人が使えば、それは「法人から個人への経済的利益の移転」であり、税務上は「役員報酬」「役員賞与」として扱われる可能性があるということです。
ポイントを個人利用した場合の税務リスク
役員賞与として認定されるリスク
法人カードのポイントを社長が個人利用した場合、税務調査で「役員賞与」として認定されるリスクがあります。
役員賞与は、法人税法上は原則として損金不算入(経費にならない)です。つまり、ポイント利用分の金額が役員賞与と認定されると、法人側では経費にならず法人税が増額され、個人側では所得税・住民税の課税対象になるという二重課税が発生します。
例えば、年間1,000万円の経費を法人カードで決済し、還元率1.0%で10万円分のポイントが貯まったとします。この10万円分を社長が個人利用した場合、税務調査で指摘されれば以下の負担が発生する可能性があります。
法人側:10万円の役員賞与が損金不算入となり、実効税率約30%で約3万円の法人税増加。 個人側:10万円が給与所得に加算され、所得税率によりますが約2〜4万円の所得税・住民税増加。 合計:5〜7万円程度の追徴課税(延滞税・過少申告加算税を含めるとさらに増加)。
10万円のポイント利用で5〜7万円の追徴課税が発生するとすれば、実質的にポイントの大半が税金で消えることになります。
税務調査で実際に指摘されるケース
税務調査でポイントの個人利用が指摘されるのは、主に以下の3つのケースです。
1つ目は、高額なポイント利用が帳簿に反映されていないケースです。法人カードで年間数千万円の決済を行い、数十万円分のポイントが貯まっているにもかかわらず、ポイント利用の会計処理が一切行われていない場合、調査官の目に留まりやすくなります。
2つ目は、マイルの個人利用が明確なケースです。法人カードで貯めたANAマイルやJALマイルを家族旅行の航空券に充当した場合、個人利用の証拠が航空会社の利用履歴に残ります。マイルは1マイル=1.5〜2円程度の経済的価値があるため、年間数万マイルの個人利用は無視できない金額になります。
3つ目は、ポイントでの購入品が法人の事業と無関係なケースです。法人カードのポイントで家電製品やギフト券を購入し、社長の自宅で使用しているケースです。購入履歴がカード会社のマイページに残るため、調査時に確認される可能性があります。
少額であれば見逃されるのか
「数千円程度の少額なら見逃されるだろう」と考える経営者も多いですが、税法上は金額の多寡に関係なく課税対象です。ただし、実務的には年間数千円程度のポイント利用について税務調査で指摘されるケースは稀です。調査官が指摘するのは、金額が大きい場合や、他の税務上の問題と合わせて指摘する場合が一般的です。
とはいえ、「少額だから大丈夫」という判断はリスクがあります。税務調査は過去5年(不正があれば7年)分を遡って調べるため、毎年少額でも累計すると数十万円になるケースがあるためです。
税務調査で指摘されないための正しい運用方法
方法1:ポイントを事業用途のみに使用する
最も安全な方法は、ポイント・マイルをすべて事業目的で使用することです。
事業用途の例:オフィス用品(文房具・備品)の購入に充当する。出張の航空券・新幹線代に充当する。取引先への贈答品に使用する。法人カードの年会費に充当する(カード会社が対応している場合)。
事業用途で使用した場合の仕訳は以下の通りです。
ポイントで10,000円分の備品を購入した場合: 借方:消耗品費 10,000円 貸方:雑収入 10,000円
ポイント利用分を「雑収入」として計上し、同時にその用途に対応する経費科目(消耗品費・旅費交通費等)を計上します。収益と費用が相殺されるため、実質的な税負担は小さくなります。
方法2:個人利用する場合は雑収入として計上する
代表者がポイントを個人利用する場合は、その金額を「雑収入」として法人の収益に計上し、同時に「役員報酬」として処理する方法があります。
ただし、役員報酬は「定期同額給与」の要件を満たす必要があるため、ポイント利用のたびに臨時で計上すると「定期同額」の要件を満たさず、損金不算入になるリスクがあります。
実務的には、年間のポイント利用見込額を事前に算定し、定期同額給与にその分を含めて設定する方法が考えられますが、顧問税理士との事前相談が必須です。
方法3:ポイントを使わずに貯めておく
ポイントを使用しなければ課税は発生しません。税法上、ポイントは「使用した時点」で収益(経済的利益)として認識されます。貯めているだけの段階では、原則として課税対象になりません。
ただし、ポイントには有効期限があるカードも多いため、失効してしまうと「使わなかったが税負担もない」という結果になります。合理的にはポイントを事業用途で消化するのが最善です。
方法4:社内規定でポイントの取扱いを明文化する
最も効果的なリスク対策は、法人カードのポイント・マイルの取扱いに関する社内規定を作成し、明文化しておくことです。
社内規定に記載すべき内容は以下の通りです。法人カードのポイントは法人に帰属すること。ポイントの使用は事業目的に限ること。ポイント利用時の会計処理方法。マイルの利用ルール(出張利用のみ等)。規定に違反した場合の対応。
この規定が存在し、実際に運用されていれば、税務調査で「意図的な個人利用ではなく、管理体制が整っている」ことを示すことができます。
ポイント還元率別の税務インパクト試算
年間の法人カード決済額ごとに、ポイントの税務インパクトがどの程度になるか試算します。
年間決済額500万円の場合。還元率0.5%でポイント25,000円相当。還元率1.0%で50,000円相当。還元率1.5%で75,000円相当。
年間決済額1,000万円の場合。還元率0.5%でポイント50,000円相当。還元率1.0%で100,000円相当。還元率1.5%で150,000円相当。
年間決済額2,000万円の場合。還元率0.5%でポイント100,000円相当。還元率1.0%で200,000円相当。還元率1.5%で300,000円相当。
年間決済額が大きくなればなるほど、ポイントの税務処理を放置するリスクが高まります。年間100,000円以上のポイントが発生している場合は、顧問税理士に処理方針を確認することを強く推奨します。
マイルの個人利用は特に注意が必要
ポイントの中でも、航空会社のマイルは特に注意が必要です。
理由は2つあります。1つ目は、マイルの経済的価値が高いことです。1マイルの価値は特典航空券の利用先によって異なりますが、国際線ビジネスクラスに充当した場合、1マイル=3〜5円以上の価値になるケースがあります。年間10万マイルを貯めれば、30〜50万円相当の経済的利益が発生します。
2つ目は、マイルの利用履歴が明確に残ることです。航空会社のマイレージプログラムには、誰がいつどの便を利用したかの記録が残ります。税務調査で「法人カードで貯めたマイルで家族旅行に行った」ことが判明した場合、言い逃れは困難です。
マイルの安全な利用方法は、出張の航空券に充当することです。出張目的であれば事業用途として正当化できます。その際、出張報告書を作成し、マイル利用の旅費交通費を計上しない(ポイントで支払ったため現金支出がないことを明記する)ことで、整合性のある会計処理になります。
顧問税理士に確認すべき3つの質問
法人カードのポイント処理について、顧問税理士に以下の3つを確認してください。
1つ目の質問:「当社の法人カードポイントの帰属は法人・個人のどちらで処理しますか?」。法人帰属とするか、個人の一時所得とするかで処理方法が変わります。税理士と方針を一致させておくことが重要です。
2つ目の質問:「ポイントの会計処理は使用時計上で問題ありませんか?」。ポイントを使用した時点で雑収入を計上する方法が一般的ですが、税理士によっては期末時点で未使用ポイントの見積計上を求めるケースもあります。
3つ目の質問:「ポイントの個人利用があった場合、定期同額給与の枠内で処理できますか?」。年間のポイント利用見込額を役員報酬に含めて処理する方法が現実的かどうか、税理士の見解を確認してください。